大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

和歌山地方裁判所 昭和27年(行)9号 判決

原告 和歌山県知事

被告 和歌山地方法務局長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、原告が昭和二十七年六月二十六日訴外丸和復興株式会社に対する県税滞納処分として別紙物件目録記載の物件につき和歌山地方法務局になした差押登記の嘱託を同法務局登記官吏が却下の決定をしたのに対し、不動産登記法第百五十条によつてなした異議申立につき、被告が昭和二十七年七月十五日これを却下した決定はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、昭和二十七年六月二十六日、原告は訴外和歌山地方法務局に対し、和歌山県が訴外丸和復興株式会社に対する入場税総額三百八万五千三百九十二円につき、滞納処分として、同会社所有の別紙目録記載の不動産に対し差押登記の嘱託をしたところ、同日同局登記官吏羽根忠治は、右不動産に対しては、昭和二十六年八月二十日受附第八〇八三号、原因同月八日市税滞納処分により権利者和歌山市のため差押登記がなされており、同一物件に対する二重の差押の登記はできないからとの理由で、原告よりなした右差押登記の嘱託を却下した。そこで、原告は被告に対し昭和二十七年七月一日右登記官吏の処分を不服として、不動産登記法第百五十条により異議の申立をなしたところ、被告は同月十五日、地方税法が交付要求の制度を認めているのは、同一物件に対する二重の差押を禁止する趣旨であるとの見解から、登記官吏羽根忠治が原告の差押登記の嘱託を二重差押の申請なりとして不動産登記法第四十九条第二号により却下したのは適法であるとし、同法第百五十四条によつて原告の右異議の申立を却下した。しかしながら右被告の却下決定は左記の理由により違法である。すなわち、

一、一般的に同一物件に対する二重差押は性質上可能であるところ、民事訴訟法では第五百八十六条、第六百四十五条で有体動産及び不動産の強制競売に関して明らかに二重差押を禁止しているが、地方税及び国税徴収法には何等その禁止規定がないから、地方税法及び国税徴収法に準拠してなされる県税滞納処分については二重差押は適法であり、これを為し得ると解すべきものである。また民事訴訟法による強制執行と地方税法による滞納処分とはその性質が異るから、民事訴訟法の右規定を滞納処分の場合に準用し又は類推適用すべからざるものである。

二、地方税法第百五条を始め同法に規定する交付要求の制度は、二重差押を禁止する趣旨ではない。即ち、

(一)  交付要求の効力については民事訴訟法第五百八十七条、第六百四十五条のような規定がないから、交付要求には配当要求及び先差押取消の場合における差押の効力がないと見るより外なく、かかる法的効力のない交付要求によつては滞納処分をなすことに遅れた他の徴税権者の権利を保護することができない。結局同制度は他の徴税権者において二重差押をしなくても、徴税の目的が達成できると思料する場合に対処して設けられた制度に過ぎず、その権利を確保するためには二重差押をなすより外に手段がないと解すべきである。

(二)  また右交付要求の制度をもつて差押に代る滞納処分の一方法であると解し、同制度が存在することによつて二重に差押ができないとするときは、地方税法第百二条等との関連において不当な結果を生じる。蓋し、同条は滞納処分に不服な納税者の救済手段としての異議の申立、訴訟の提起について規定するのであるが、交付要求は先順位の執行機関に対してなされるものであつて、納税義務者に通告されるものではないから、通常納税義務者は交付要求のあつた事実を知らない間に同条所定の法定期間を徒過してしまい、結局不服申立の機会を喪失することになる。しかしながら、法律はかような不都合を予期しないと見るべきであるから、交付要求の制度は差押に代る滞納処分の一方法でなく、従つて同制度が存在すること自体によつて二重差押が禁止されていると解すべきではない。

(三)  交付要求は前記の通り何等の法的効力のないものであるから、交付要求をした徴税権者は先に滞納処分をした徴税権者の為徴税を左右される不都合な結果を生じる。すなわち、先に滞納処分をした徴税権者は比較的少額な滞納税金のため、十数倍乃至数十倍の価値を有する不動産を差押え、その公売手続をとらずに相当長期間放置し、時に十個年にも及ぶ年賦分納を約する場合もあるから、交付要求をした徴税権者は先に滞納処分をした徴税権者より多額の滞納税金を有するに拘らず、唯拱手傍観するより外に途がなく、滞納者のみ独り利益を得る結果に陥るのである。かくの如き交付要求の手段あるの故に二重差押を為し得ないとの解釈は徴税上大なる弊害をかもすものである。今本件についてみるに和歌山市が訴外丸和復興株式会社に対し昭和二十六年八月八日市税滞納処分をし、同月二十日差押登記をなした税額並びに差押物件の当時の価格を示すと、昭和二十四年度の自動車附加税、市民税、不動産取得税附加税の合計額四万三千八百四十七円の為、評価金四十六万七千六百七十五円の不動産を、昭和二十四年度不動産取得税附加税、地租附加税、都市計画税、自動車取得税附加税の合計額三万一千二十七円のため評価金五十万七千円の不動産を、昭和二十四年度家屋税附加税、都市計画税、不動産取得税附加税、営業税附加税の合計額五万七千百八円のため評価金八百一万三千円の不動産を、昭和二十三年度分営業税附加税、都市計画税、市民税、自動車附加税、同二十四年度広告税、同二十五年度固定資産税、同償却資産税、入場税附加税等合計額百八十二万八千四百六十円のため評価金十八万一千七百六十円の不動産を夫々差押え、更に、昭和二十七年五月十五日には合計額四百一万一千二百二十五円の滞納があると称して映写機その他の動産の差押をもなしたものである。かように、和歌山市が滞納税金に比較して多額の財産を差押えたのは右市当局と納税義務者との談合上、和歌山県その他から差押えられることを防止する手段であると聞き及んでいるのである。

三、以上のように地方税法においては二重差押を許しているのであつて、同法第十五条第二項は、二重差押をなした場合の順位に関する規定であり、同条第四項は二重差押をせずして単に交付要求のみをした場合の順位に関する規定である。また仮差押ある物件に対する強制執行は民事訴訟法上でも可能であるから、国税徴収法第十九条は単に仮処分物件に対する関係上疑義を一掃する注意的規定に過ぎず、二重差押を禁じるが如き法意をもたぬ。

よつて原告は被告のなした右却下決定の取消を求めるため本訴に及んだと述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、昭和二十七年六月二十六日、原告が訴外和歌山地方法務局に対し、原告主張通りの目的で、その主張通りの不動産に対し差押登記の嘱託をしたところ、同日、同局登記官吏羽根忠治が、原告主張通りの理由でこれを却下したので、同年七月一日、原告は被告に対し原告が主張するような異議の申立をしたところ、同月十五日、被告は原告主張通りの理由でこれが却下の決定をしたことは認めるが、その他の事実は争う、訴外丸和復興株式会社の和歌山市に対する昭和二十六年八月二十日当時の滞納市税は金五百九十六万九百十一円六十銭で、現在の滞納市税は金四百九十六万九百十一円六十銭であり、又昭和二十四年度家屋税附加税、都市計画税、不動産取得税附加税、営業税附加税の合計額は金七万四千六十六円であり、昭和二十三年度分営業税附加税、都市計画税、市民税、自動車税附加税、同二十四年度広告税、同二十五年度固定資産税、同償却資産税入場税附加税の合計額は金百八十一万一千五百二円であり、昭和二十七年五月十五日動産に対して差押をなした滞納税額は金四百万一千二百八十五円六十銭であると述べ、更に地方税法は二重差押を禁止している旨を次の通り述べた。

一、地方税法や国税徴収法には税金の滞納処分としてなす差押の場合に、二重の差押を禁止する直接の明文はないが、滞納処分としてなす差押に二重差押を許すとすれば、執行手続が錯雑になり、また手続費用が加重されることは民事訴訟法の場合と同様であるから、同趣旨のもとに立法された民事訴訟法の二重差押禁止に関する規定を滞納処分としての差押にも準用乃至類推適用すべきである。

二、地方税法や国税徴収法には二重差押を禁止することを前提とする規定がある。すなわち、

(一)  地方税法第百五条は道府県税たる入場税に関し交付要求の制度を規定し、その他国税、市町村税についても同趣旨の規定があるのであるが、この交付要求を認めていること自体が二重差押を禁止する趣旨と解するのが相当であり、また、右規定の但書に、他に差押える財産がある場合には直ちにこれを差押えることができると規定しているのは明らかに二重差押を禁じて、唯この場合の交付要求の方法のみを認めたものと解すべきである。

(二)  同法第十五条第二項は、「地方団体の徴収金の滞納処分によつて財産を差押えた場合においては、当該地方団体の徴収金は当該財産の価額を限度として、国の徴収金及び他の地方団体の徴収金に先だつものとする」と規定しているのは二重差押の禁止を前提としているものであつて、若し二重の差押を許すとすればその差押をした二つの地方団体の徴収金の優劣がわからなくなるであろう。同項は差押をし遅れた地方団体は交付要求で満足すべきことを示しているといわねばならぬ。また同条第四項は交付要求をなした地方団体及び国の徴収金間の順位を同順位とする旨を規定したものであるが、同項も亦二重差押禁止を前提としているものといわねばならぬ。なんとならば、若し二重差押を許すとすれば、わざわざ効力の劣る交付要求よりは差押の方を選ぶであろうから、同項は無意味に帰し、また二重差押の場合の各徴収金間の順位を定めた規定がないことからしても、地方税法は二重差押を禁止しているものと解せざるを得ない。

(三)  国税徴収法第十九条は滞納処分は仮差押又は仮処分のためにその執行を妨げられない旨を規定しているが、この規定の反面解釈として通常の強制執行がある場合には滞納処分はできないことが明白であり、この規定の趣旨は国又は地方団体の行う滞納処分相互間に準用すべきものと思料する。

なお、証拠につき乙号各証の成立を認めると述べた。

三、理  由

一、地方税及び国税徴収法による滞納処分は、他の総ての公課及び債権(国税徴収法第三条及び地方税法第十五条第七項の抵当権者及び質権者を除く、)に対して優先権を有する国税又は地方税の徴収権者である国又は地方公共団体が自ら、その納税義務者の財産を差押えてその処分権を奪い、徴収権者自身たる国又は地方公共団体がその処分権を収納し、自ら当該財産を処分し、以つて他の公課の徴収権者や債権者等を排除し、これに優先して国税又は地方税の徴収権の満足を具現せんとするものであつて、民事訴訟法の金銭債権についての強制執行や競売法上の競売が、債権者及び債務者以外の第三者たる国(その機関たる執行裁判所又は執行吏)において差押をなし、債務者の処分権を収納してその処分をし、以つて債権者に満足を得せしめるのと大に趣を異にし、国又は地方公共団体が自己の徴税権の満足を実現するために一種の自力執行又は自力救済をなすものであると言うことができる。自力執行をなし得る者は、執行に関し他の権利者の干渉を排斥し、その執行の目的物を独占処置することができるものと解すべく、従つてその執行の目的物に対し更に他の権利者が二重の差押をすることを排斥するものである。滞納処分により差押えた財産に対し更に重ねて差押をなし得ないことは、滞納処分が前示の通り自力執行の性格を有することより生ずる当然の帰結である。

二、民事訴訟法上の金銭債権についての強制執行は、専ら執行裁判所又は執行吏が執行機関としてその手続を遂行するのであるが、しかも一の財産に対して二重の差押を許し、その各々の差押に基き個々別々に手続を進行せしめるときは計りがたき混乱と錯雑を来すから、債権その他の財産権の差押の場合を除き明文をもつて二重差押を禁止している。(民事訴訟法第五百八十六条第一項、第六百四十五条第一項、第七百八条第一項、第七百十七条)しかるに、国及びあまたの地方公共団体がそれぞれ各別にその執行手続を担当する滞納処分において、一の財産に対する二重三重の差押を許すとせば、強制執行の場合に比し、更に一層の混乱錯雑を示すことは見易き道理であるから、競合する差押につきその間の関係を調整する何等かの規定を置くべき筋合であるのに、地方税法及び国税徴収法上これに関する何等の規定もないことは、結局滞納処分においては二重の差押を予想せず、従つてこれを許さない法意であると解すべきである。

三、国税徴収法第二条、地方税法第十五条は、国税、地方税その他の公課及び債権の間の優先順位を規定し、国税の滞納処分によつて差押のあつた場合は当該国税がその他の国税及び地方税に優先し、地方税の滞納処分によつて差押のあつた場合は、当該地方税はその他の地方税及び国税に優先することを定めるが、滞納処分による差押にかかる国税と国税、国税と地方税及び地方税と地方税の間の順位や、その差押の先後によつて優劣が生ずるか否かについて何等定めるところがない。しかも国税及び地方税以外の公課の滞納処分によつて差押のあつた時は、交付要求のあつた総ての国税や地方税の順位は同順位であると定めている。これは公課の滞納処分に当り交付要求は競合してなされることがあるから、その順位を規定する必要があると共に公課の滞納処分による差押のあつた場合に更に重複して他の公課の滞納処分による差押はこれを許さないから、これらの差押にかかる公課の間の順位はこれを規定する必要がないとしたために外ならない。

四、国税徴収法第十条第二号、地方税法第百五条(各種の地方税につきそれぞれ同一の規定がある)の規定は、納税義務者が国税、地方税、その他の公課の滞納によりその財産につき滞納処分の差押を受けた場合においては、国又は地方公共団体は当該財産に対しては更に差押をすることはできないのであつて、差押にかからない他の財産がある場合に限りこれを差押えることができるに過ぎないとの趣旨であると解すべく、国税徴収法施行規則第十七条の二の規定は、滞納処分の差押を解除した場合においては、その差押あるがため滞納処分の差押をなすことを得ずに空しく待機している他の国又は地方公共団体にその旨を通知して、これらの者をして機を逸せずに差押をなさしめんとする法意であると解すべく、更に国税徴収法第十九条の規定は、仮差押及び仮処分ある財産に対しても滞納処分による差押をなし得べきことを明らかにすると共に、反面仮差押及び仮処分以外の差押ある財産については、更に滞納処分による差押をなし得ないとする趣旨であると解すべく、これらの規定によつても、滞納処分による差押のなされた財産に対して更に重ねて滞納処分の差押をすることを許さない法意を諒解するに余りあるものがある。

滞納処分による差押のなされた財産に対し、更に滞納処分の差押を許さないことは以上説明した通りであつて、国又は地方公共団体はその納税義務者がその財産につき既に滞納処分の差押を受けた時には、国税徴収法施行規則第二十九条、地方税法第六十四条、第百五条、第百三十七条、第二百八十八条、第三百三十四条、第三百七十六条、第六百九十八条、第七百七十条、第八百一条等の規定により先に差押をした国又は地方公共団体に対し交付要求をし、その差押財産の売却代金等の中から、国税徴収法第二条、第三条、第七条の四第四項、地方税法第十五条、第十六条の四第五項の規定による優先権の順位に従い、国税徴収法第二十八条の規定により、その税金等の支払交付を受けるより外はないのである。

本件において、和歌山市が昭和二十六年八月八日訴外丸和復興株式会社所有の別紙物件目録記載の不動産に対し、滞納処分による差押をなし、同月二十日その差押の登記がなされたことは、真正に成立したことについて当事者間に争いのない甲第二号証の一乃至十一、甲第三号証の一、二によつて明らかであり、原告が昭和二十七年六月二十六日右会社に対する県税(入場税)金三百八万五千三百九十二円の滞納処分として右同一不動産の差押登記を和歌山地方法務局に嘱託したところ、同日同法務局登記官吏羽根忠治が該登記嘱託を却下する決定をし、原告はこれに対し被告に異議を申立て、被告は同年七月十五日該異議申立を却下する決定をしたことは、当事者間に争いのないところである。

然らば、和歌山市が既に昭和二十六年八月八日滞納処分による差押え、同月二十日その旨の登記をした訴外丸和復興株式会社所有の別紙物件目録記載の不動産に対し、これより遅れて昭和二十七年六月二十六日更に該不動産を滞納処分により差押えることは、これを許すべからざること前示説明の通りであり、該差押登記の嘱託あるもその登記をなすべからざることは勿論であるから、その登記の嘱託を受けた和歌山地方法務局登記官吏が不動産登記法第四十九条第二号によりこれを却下したのは相当であり、これと同一の趣旨で原告の異議申立を却下した被告の決定は正当である。従つて原告の本訴はその理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 万歳規矩楼 宇都宮綱久 小畑実)

(別表省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!